「男友達」ってだってboyfriendだもんね

 wacciの「男友達」という曲があまりにもぎゅうっとなる。ぎゅうっとなるってなんだよって思うかもしれないけど、ぎゅうっとなるよぎゅうっと。メロディの陽気さと歌詞の飾らない痛々しさがちぐはぐで、訳の分からないままリピートボタンを押してしまう。そうして繰り返し聴いていると、そのうちに心臓持っていかれた気になる。こわい。私の心臓を返してくれwacci。



 この歌、ほんとになにがいちばんって、ひとがいちばん。曲を語っている「僕」と「僕」によって語られる「きみ」。彼らが非常にいいヤツだ。いや、いいヤツというよりはいいキャラなのかもしれない。「僕」は「きみ」に気持ちを伝えて遠くなってしまうくらいなら…と告白を渋ってしまうような男の子だし、「きみ」はそんな「僕」の心の機微になんてちっとも気付かない女の子だ。ちょっと情けないしぬけている。「きみ」なんて、まあ笑っちゃうくらいにおばかでかわいい。とにかくかわいい。容姿は知らない。もしかしたら美人さんではないかもしれない。私のタイプの戸田恵梨香みたいな顔でも橋本奈々未みたいな顔でもないかもしれない。でもとにかくひととしてかわいい。曲の冒頭、「僕」にむかって「どんな人がタイプなのって急に まるで思い出したように」聞く「きみ」の無邪気さには、呆れると同時にすべての棘を抜き去っていくような柔らかさがある。この歌の中での「きみ」は、とにかくそういう、対峙した者が持つ負の感情をまるっと投げ去るような女の子だ。そして快活。好きな男の子(憧れって感じの方が近しい気も勝手にする)と行ったご飯を振り返って、「おしゃれなところは窮屈だった」と言ってのけて「大きく笑う」。これにはもう、「僕」と同じく「そんなところが大好きなんだよ」!と叫ぶに尽きる。退屈だとか肩身が狭いだとか、そういう平凡でつまらない言葉じゃあなくて、窮屈って言葉を選んで使うこの子がなんだか好きでたまらなくなる。たぶん窮屈って口にし慣れてなくて言いにくそうだし、ほんともうかわいいの権化か。というか、短い1曲の中で聞いているだけの私にまでこれだけ「きみ」のかわいさを伝えられる「僕」もすごい。ほんとに健気でかわいいというか、いじらしい。

 いじらしいまでに「僕」に好かれている「きみ」は、ほんとうにまっすぐにおばかだ。「僕」の持つほんとの気持ちにはこれっぽっちも気づかない。気づきもしないからこそ、「男女の友情 成立すると豪語」できてしまう。豪語する「きみ」とそれを聞く「僕」を浮かべると、もう胸がきゅっとする。「きみ」はきっと自信満々に、ねじのぬけたばかなかおで笑うにちがいない。そうしてそれは、「きみ」から「僕」への最大で最高の好意の現れだ。普通男女の友情って成立しないよね、でも私たちは違うもんね。ひとと違うふたりだけの特別は「きみ」にとっての自慢で、そのへにゃへにゃの笑いがおのなかにある自慢を「僕」はきちんと読みとる。そうしたら「僕」はいたくたってしんどくたって、ちょっとだけどうしようもなくうれしくなってしまうんだろうなあ。なんだそれ。もう泣きたくなる。はなみず噛む時間をちょっとくれ。サビはやいぞ。ほんとちょっと待ってくれください。ティッシュ取ってくる。

 それから私がこの曲の中でいちばんに好きな箇所、豪語する「きみ」に「そうだよな そうじゃないんだな」って思う「僕」、これだ。ほんとに「きみ」のことが好きないい男すぎて心配になる。現代の人間か?存在するのか?バーチャルか?おばかな、的はずれなことを自信満々に言っちゃう「きみ」にそうだよなって同意してあげて、それから、そうじゃないんだなって苦笑するんだろう姿がやさしすぎてつらい。そうじゃないんだよな、じゃあないんだ。そうじゃないんだな。このせりふに「きみ」を非難するような棘はひとつもない。告白できないよわっちい「僕」だけど、「きみ」に当たってしまうようなよわい男じゃあない。これがどれだけ格好いいか。気づかない「きみ」はほんとうに阿呆だね。いつも「きみ」が気づきもしないようなところで「僕」は「きみ」を大切にしているのに。「会わない方がいいねとなるくらいならば 好きだという気持ちは墓場まで持ってくよ」。崩れるかもしれない関係性を思って躊躇う気持ちはおおいにあるだろうけど、それと同時に会わない方がいいと言わなきゃならない「きみ」をつくりださないための墓場まで…に違いないのだ。だってこれは「きみ」を大好きな「僕」の歌なんだから。それにしても墓場までって言葉選び秀逸すぎるだろ。お墓じゃなくて墓場。たまらん。でも好きなフレーズ、まだある。「酔いつぶれたきみのつむじに呟く」というところ。へべれけになるまで話しつづけた(たぶんちょっとばかり一方的な)「きみ」の恋バナを、「僕」は居酒屋のむかいの席で聞いてくれていたわけで。ちゃんと「きみ」の望むラインを踏まずにいてくれる、ほんとにいい男なんだよなあ。まあこの「僕」のいいヤツってのが全人類に向けてなのか好きな女の子にだけ向けてなのかは知らないけれど、そんなことは関係ない。とにかく「きみ」は、別な男に懸想して酔いつぶれている場合じゃないと思うんだけどなあ。あ~あ。



 いろいろ細かいフレーズだったりメロディとの嵌りだったりはもっとあるけれど、とにかくこのふたりほんとにいいヤツなんだ。好きになっちゃうんだ。きゅんとしちゃうんだ。って話。